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逃げ道がなかったらどうやって生きていけるというのだろう

出会い系サイトで70人と会ってその人に会いそうな本をすすめまくった1年のこと』という非常にキャッチーなタイトルに釣られて、この本を読みました。

タイトル通り「出会い系サイトで70人と会ってその人に会いそうな本をすすめまくった」話は面白く、どんどん引き込まれていきます。

 

それだけでも十分に楽しめるのですが、ただ「出会い系サイトで70人と会ってその人に会いそうな本をすすめまくった」友だちの話を聞く感覚の作品ではありません。

読んでいると、現実と理想の二公対立ではなく、”リアルの中のバーチャル”、”バーチャルの中のリアル”という不思議な世界を垣間見る不思議な感覚に陥ります。

 

「人は他人との関わりの中でしか、自分を認知できない」という言葉のように、作者は出会い系サイトで出会う人との関わりの中で自分を見つめ直し、読者はその作者を含む他人を更に客観的に見ることができます。

こんなにもたくさんの他人のリアルを見せてくれるのに、なぜか自分のことを考える時間を与えてくれるのです。

 

あらすじ

本と雑貨のセレクトショップ「ヴィレッジバンガード」に長年勤める作者花田菜々子。
夫婦生活は離婚の危機を迎え、仕事もうまく行かない。

そんな疲れた毎日を送る中、「もっと知らない世界を知りたい。広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい」と偶然目にとまった出会い系サイト「X」。

「変わった本屋の店長をしています。1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます

とプロフィールを登録し、実際にさまざまな人に会い、本を介してさまざまな感情に触れていきます。

 

みんな「どこかへ行く途中」の人

ここにいる人は、みんな「どこかへ行く途中」の人だ。

たとえば仕事に満足していて、家庭や恋愛もいい状態が保たれていて、このままでいたい、満たされているという人とはここでは出会わない

仕事をやめたばかりだったり、起業や転職という人生の転機を迎えようとしていたり、今の自分の状況に違和感があって何かを変えなければと思っていたり。

本の中で使用されているのは、出会い系サイトといっても、いわゆる恋愛のマッチングアプリのようなものではなく(中には、恋愛目的の人もいるけれど)、コンセプトは「知らない人と30分だけ会って、話してみる」。

学生・会社員・起業家といろんな人がそれぞれの意図を持って参加しています。

そんな出会い系サイトで出会う人たちのことを作者の花田菜々子さんは、「どこかへ行く途中」の人と表現しています。

確かに、自分の先の道が見えないとき、他者と関わることで、自分の輪郭を探りたいという気持ちは、なんだかわかる気がします。

みんなが不安定さを礼儀正しく交換し、少しだけ無防備になって寄り添っているみたいな集まりだった。

と思ったけど、もしかしたら世界全体もほとんどそうだったりして?

そしてこの文章が続きます。

出会い系サイトで会う人は、岐路が目の前に迫っている人が多いけれど、世界全体に視野を広げてみても、同じようなもの。

なぜなら、人生において完全に止まった状態というのは生きている限り無いといっても過言ではないからです。(行ったり来たり、浮遊したりは多分にあると思うけれど)

そう思うと、死という時間制限はあるけれど、誰かが決めたゴールなんてどうでもいいし(自分の意志以外でゴールとか必要ない)、早く走ったり、のんびりするのも自由だし、やっぱり「今」途中にいることをどれだけ楽しめるかでいいんじゃないかって、気持ちがとっても軽くなりました。

 

逃げ道がなかったらどうやって生きていけるというのだろう

またにぎやかな世界にするためには、詰め込んで詰め込んで、楽しい事の濃度上げていくしかない。

上から塗りつぶすように楽しさを積み上げていく。

夫婦の問題に引き戻されて立っていられなくなりそうになっても、もうひとつの世界でどんどん新しい世界を吸収し、元気にしている明るい自分の残像が自分を支えた。

この気持ち経験したことがある方も多いのではないでしょうか。

もう自分の力ではどうにもならないと思えるようなことが起きたとき、向き合う気力さえなくなって、そのことを忘れられる時間を増やすことに一生懸命になってしまう…。

 

向き合うべきことに向き合わずに、楽しいことだけやって逃げているだけだろ、こんなの、と、自分の声が後から追いかけてくる。

だけど、逃げ道がなかったらどうやって生きていけるというのだろう。

そうやって置かれた世界から目を背け、自分が見たい世界に目を向けることは、ものごとの解決になっているかどうかはわかりません。

けれど、逃げられる世界を持つことも、なにも悪いことではないと思います。

どんなに軽やかに生きているように見える人だって、見えないところでいろんなことを言われているもの。

それでも軽やかに見えるのは、こうなったらいいなという想像力を時に織り交ぜながら、見たい世界を自分にも周りの人にも見せる努力をしているのではないかと思います。

沈んだ気分になったときにも寄り添ってくれる、素敵な本です。
ぜひ読んでみてください。

 

Ai Tabata

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「AI TIME」編集長。まちづくりベンチャー企業で広報・旅行事業立ち上げ→オーストラリア・メルボルンで海外フリーランス。企画/PR/Webマーケティングを...

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